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「ケーゲルのSACDでショックを受ける」
平林直哉著『盤鬼、クラシック100盤勝負! SACD50選付き』より

 この全集はケーゲルの録音の中でもそれほど話題になることはないし、私自身もそれほど優れた演奏だとも思っていなかった。しかし、SACDで聴き直してみて、その考えは一八〇度変わってしまった。ケーゲルの本領はいわば細部の表情の変化にある。しかも、この演奏は少なくとも設定されたテンポについてはごくごく標準的なものである。言い換えれば、そういった細部がきちんと再現できていないCDでは、この演奏は〈ごくありきたりのもの〉に聴こえてしまう可能性が大きい。
 今回、改めて聴き直して特に感銘を受けたのは『第1、3、4、7、8番』である。たとえば、『第4番』の第2楽章の繊細を極めた美しさ。『第7番』の第一楽章では内声部まできっちりと響いてきて、曲の面白さが十分に伝わってくる。また、同じく『第7番』の第2楽章冒頭ではわずかに低弦を強調し、いっそう暗い音色を引き出そうとしている様子も、このSACDでははっきりと聴き取れる。『第8番』の第1楽章では研ぎ澄まされた各パートが、激しく火花を散らすようなスリリングさがある。さらに、『第9番』の第4楽章の個性的表現にも改めて驚いた。まず、独唱、合唱をこれだけきっちりと歌わせた例は希有ではなかろうか。特に合唱の方は歌詞もきちんと聴き取れるくらいにはっきりと発音させているが、ケーゲルは執拗に練習をしたのではあるまいか。また、この独唱、合唱にはほとんど祝祭的な気分が感じられず、あたかもレクイエムやミサを歌う時のような厳粛さがあるのも独特である。もちろん、オーケストラにも指揮者の厳格な目が光っている。たとえば、テノールの独唱が終わったあとオーケストラだけになる部分で、ここはレントゲン写真のように各パートが不気味なほどくっきりと浮かび上がっている。
 ショックを受けたあと同じ部分をCD(レーザーライト/輸入盤 15947)で聴いてみたが、音は混濁気味であり、表情ものっぺりしていて、さきほど触れたように〈ごくありきたり〉に聴こえてしまう...

(ひらばやし なおや 音楽評論家)
DSDリマスタリングでよみがえるケーゲルのベートーヴェン!
ノーマルCD層も見違えるほどの音質改善!

1982から83年にかけて録音された、ケーゲルの伝説的な全集録音。当セットでは、DSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)による完全なリマスターが施されたため、音質がかなり良くなっています。
 これまで何度も再発売されているこのセットですが、マスターテープにまでさかのぼって一からリマスタリングの手が加えられるのはこれが初めて。
 音楽だけでなく、衛星放送の「ディスカヴァリー・チャンネル」など、幅広い分野の音響デザインを手がける「スタジオ301」(ケルン)が今回のリマスターを手がけています。
 ハイブリッドなので、サラウンドSACD、2チャンネルSACD、2チャンネル・ノーマルCDという3種の信号が収められていますが、マルチ・サラウンドに関しては、5.1ではなく、4.0chを採用。これはCapriccioが新規に制作する録音に関しても当面は同様の処置がとられるということなので、あえてセンターチャンネルやサブウーハーを用いないという方針は、Capriccioのポリシーに基づいて決められたことと思われます。
 サラウンドは、B&W 801(大型スピーカー)を全チャンネルに用いてモニタリングがなされた上、ニアフィールド(近接セッティング)で別のスピーカー(オルフェウスNFモニター)を用いて、さらに実験を繰り返し、音決めがなされた…という、大変な凝りようです。
 DSDのワイドレンジ効果は絶大で、ブックレットには「すべての帯域がワイドに広がったため、これまでのノーマルな録音と比較して、わずかながらピーク時の全体レベルを下げる必要がありました。再生の際は通常のボリューム位地より高く設定してください。そうすれば、このシステムのダイナミックなサウンドが大きなインパクトを与えてくれるでしょう」と記載されています。
 実際、これまでのCDと比較試聴してみて、音色、奥行き、広がり、切れ込みといった重要な要素について、相当な違いがあったことを確認できました。入念なリマスター処理がよい結果をもたらした好例といえるでしょう。
 今回のボックスはスリップケースの上から、分厚いアクリル・ケースをかぶせてあり、手にしたときの重量感も相当なものとなっています。

【収録情報】
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770−1827)
Disc-1
・交響曲第3番変ホ長調Op.55《英雄》
・交響曲第1番ハ長調Op.21

Disc-2
・交響曲第7番イ長調Op.92
・交響曲第2番ニ長調Op.36

Disc-3
・交響曲第5番ハ短調Op.67《運命》
・交響曲第4番変ロ長調Op.60

Disc-4
・交響曲第6番ヘ長調Op.68《田園》
・交響曲第8番ヘ長調Op.93

Disc-5
・交響曲第9番ニ短調Op.125《合唱付き》

 アリソン・ハーガン(ソプラノ)
 ウテ・ヴァルター(コントラルト)
 エバーハルト・ビュヒナー(テノール)
 コロシュ・カヴァトシュ(バス=バリトン)
 ベルリン放送合唱団
 ライプツィヒ放送合唱団
 ドレスデン・フィルハーモニック
 ヘルベルト・ケーゲル(指揮)

アルバム: 公開

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